
本記事のサマリ
今回、今年で創業25周年を迎えた、スカイライトコンサルティング株式会社 ディレクターの山下厚氏と、弊社取締役CSO藤嶋が対談させていただきました。藤嶋はスカイライト出身であり、山下氏とは在籍時より現在にかけて関係性が深いことから、対談が実現しました。 現在はコンサルティングファーム兼事業会社であるWorkXの取締役CSOを務める藤嶋と、コンサルティングファームのディレクターである山下氏という、立場の異なる両者から見た”AI時代に求められる、コンサルスキルとファームの提供価値”についてお話いただきました。 (対談日:2025年10月22日) 前編後編の2部構成としており、本記事は前編でございます。 後編はこちら)【スカイライト×WorkX対談】AI時代においてコンサルファームの価値はどこにあるのか https://work-x.com/projects/j2gzr1fhar/
プロフィール

山下 厚 氏
スカイライトコンサルティング株式会社 ディレクター
東京大学法学部法律学科卒。2009年、スカイライトコンサルティングに参画。
2018年よりビジネス戦略ユニットの統括責任者(現職)。
主に大企業向けの経営/事業戦略策定を手掛け、中期経営計画策定や新規事業立ち上げ、複数企業間のアライアンスM&Aの案件を主導。実行PMとして経営層から現場まで幅広く寄り添い成果創出した案件も多数あり、プロジェクトマネジメントの有識者としても登壇。社内の新規事業としては、Skylight Consulting Vietnam(同社子会社)の立ち上げをリードし、ASEANを中心としたグローバルビジネスの拡大と安定化にマネジメントの立場で尽力。
広報誌メディアとしてコンサルティングやベンチャー投資、スポーツビジネス等の各種事業で得たインサイトを発信する『SKYLIGHT Magazine(
)』の編集長。

藤嶋 祐作
株式会社WorkX 取締役CSO
東京大学大学院を修了後、スカイライトコンサルティング、プロジェクトカンパニーを経て、WorkXに参画。
プロジェクトカンパニーでは取締役として業容拡大に貢献。2021年東証マザーズ上場後、複数のグループ会社において代表取締役、常務執行役員を並行管掌。
現職では執行役員を経て取締役に就任し、LeanXおよびSales事業を管掌。
新規サービスの戦略立案、マーケティング施策検討、システム導入/刷新、BPR/BPOなど、多様な領域/業界への支援に従事。
「風の流れを読む」スキルが重要に
藤嶋 早速1つ目のテーマに入っていきます。私が御社に在籍していたのは2018年までですが、その頃と現在では、「コンサルタントに求められるスキル」はどのように変化しているとお考えでしょうか。
山下氏 まず、現在の世の中を見渡すと、競争環境はかつてないほどのスピードで変化し続けています。ここ数年を振り返っても、新型コロナウイルスの流行による社会全体の変化や生成AIの実用化、さらには主要国の政権変更など、様々なことが起きています。肌感覚としても、5年先や10年先を的確に見通すことが以前より難しくなり、近い将来でさえも安泰だと断言できるビジネスはほとんどないと思います。
そんな中、企業が進むべき方向性を見誤らないために、いわゆる「羅針盤」の存在が重要となります。ビジネスコンサルティング領域では、先々を展望するという意味で、中長期経営計画の策定や新規事業の立ち上げなどのテーマに該当します。これは戦略や業務、システム、組織など、様々な要素が複合的に関係してきます。
その意味で、世の中を大局的な視野で捉えて「風の流れを読む」ことの重要性が数年前と比べても一層増していると思います。
藤嶋 「風の流れを読む」とは、具体的にどのようなスキルになりますでしょうか。
山下氏 2つの軸があります。
1点目は「思考力」です。世の中の様々な物事に対して、「未来に向かってどう変化、あるいは進化するだろうか」と考え抜く力ですね。「未来予測」をして数年後の世の中を的中させることは非常に難易度が高いですが、そうではなくて、世の中に対するアンテナを張って「右に進むべきか、左に進むべきか?」と思考し続けるプロセス自体が重要ということです。
そうすることで、クライアントからも「羅針盤」のように頼りにしていただけますし、様々な物事において「右か左か?」という相談に応えられるようになります。いわば、世の中におけるバランス感覚を養うということですね。これができれば、2点目としてクライアントに対する「リーダーシップ」に通じると考えています。風の流れが読めてこそ、クライアントをいい未来へと導いて差し上げられるように思います。
藤嶋さんも様々な業界や領域のプロジェクトを経験されている中で、世の中におけるバランス感覚を養うために心がけていることはありますでしょうか。

藤嶋 各業界や領域を牽引する第一人者と、逆にそのサービスやテクノロジーを利用する側の人の両方と会話を重ねていくことで、バランスを取りながら、できるだけ「生の声」を集めるようにしています。「生の声」に触れていく過程で、自らが感じた違和感やフィット感を捉えにいくイメージです。
山下氏 確かに、プラットフォーマーとユーザーの両軸を意識しつつ、信憑性の観点では一次情報はとても大事ですね。情報は、流通し続けるうちにニュアンスが微妙に変化し、また意図的に切り取られることも多いので、情報感度を研ぎ澄ませ、発信者の立場や意図なども勘案しながら上手に解釈することが求められますよね。
藤嶋 おっしゃる通りですね。ちなみに、「風の流れを読む」というスキルを養うためには、どのようなことを実践すると良いでしょうか。
山下氏 まずは自分の興味関心がある前提で良いので、先端的なサービスやテクノロジーを積極的に利用してみることですね。その世界におけるアーリーアダプターに入るというイメージです。いざその世界に飛び込んでみると、色んなことが見えてきますし、何かとチャンスも転がっていますから。
藤嶋 アーリーアダプターのレベルで色々と手を出した時に、今後トレンドが来ると思っていたが来なかった、となるとサンクコストが大きくなってしまいますが、その辺りはどのように見極めているのでしょうか。
山下氏 私自身、一人の消費者として日頃から様々なサービスやテクノロジーに自らのアンテナを張るようにしています。自らアクションを起こしてその利便性を体感することが大事ですね。
例えば、数年前に無人コンビニやメタバースなどがニュースで頻繁に取り上げられた際には、自ら足を運んで買い物をしたり、その空間を体験するようにしていました。その時に素直に感じた「良い」「良くない」という感覚を大切にしています。「良い」と感じたサービスは、市場への浸透が進んでいるものも多いですし、むしろ消費者側が利便性の高さに適応していき、結果的に日常生活や社会に変化がもたらされていく時代になっていると思います。
AI時代に生き残るコンサルとは
藤嶋 AI時代と言われている中で、コンサルティングファームまたはコンサルタント個人として競争力を高めるためには、どのようなことを意識するべきでしょうか。
山下氏 2つの観点があります。1点目は、AIを使いこなして共存共栄していくこと。これが何より重要で、世の中が便利になっていくことはそもそも喜ばしいことです。2点目は、AIでは難しい要素を人間として補完することです。
まず1点目は、コンサルタント以前にビジネスパーソンとして必要です。少しベーシックな部分からお話をしますが、AIによって置き換えが進んでいるホワイトカラーの仕事をシンプルに構造化してみましょう。情報のインプット、その情報を基に思考や分析をするというプロセス、そして求められる形式でのアウトプット。この3つに集約されます。そして、昨今のAIは、それぞれに強いプラットフォームが存在します。例えば、インプットはGoogleのGeminiやNotebookLM、アウトプットはGensparkなど。
そして、AIが扱う生のデータとしてはテキスト、画像、動画、音声といった形態があり、いずれもかなり便利に処理できる時代になっています。最近では、動画の世界でOpen AIの動画生成AI「Sora 2」の登場には驚きました。簡易的なムービーやCMなら、誰でも作れるような時代に突入しています。様々なことが今後も民主化されていき、さらに便利になっていくと思います。
藤嶋 少し手触り感のあるお話もヒントとして伺ってみたいのですが、コンサルタントの日々業務において、ここは生成AI使わないと、という利用法は何か具体例ありますでしょうか。
山下氏 英語の情報ソースを効率的にインプットすることです。ビジネス界における最先端のトレンドや研究などを要点を掻い摘んで日本語でポイントを把握できますから、思考の視野を広げる一手になると思います。

藤嶋 2点目で仰っていた「AIでは難しい要素」とは、どのようなものがありますでしょうか。
山下氏 大きく3点あります。
1点目は、クライアントのビジョンを広げて差し上げること。AIは、投げた問いにはスピーディに答えを返してくれますよね。ですが、そもそもその問いの持ち方や視野で良いのかという観点では、クライアントの組織や人の発想や思考回路自体を変革して差し上げることが必要になります。AIは夢を見ませんが、人間は夢を見ることができますよね。「もっとこういう世界観にしましょう」といった提言や、盲点への気付きを提供することが求められます。
2点目は、人間味溢れる合意形成や決断を後押しすること。企業や事業における最終判断をAIが下すことは基本的にはありません。企業や事業の内側は、データで処理できないような複雑な要素も多いですよね。一人一人には考えがあって、感情や思惑もあって、また紡いできた歴史もある。仮にAIが「右」という答えを提示してくれたとしても、クライアントの戦略や課題、内情を熟知するコンサルタントが「左」という判断を後押しして然るべき場面もたくさんあります。合意形成や決断は人間が担うものであり、その後押しも人間であるコンサルタントが担うことで力になれる場面が多いと思います。
3点目は、従来の価値観を失わないこと。時代を振り返れば、インターネットやスマートフォン、SaaS型のサービスが世の中に登場した時など、利便性が向上した半面、その反対側で必ずと言っていいほど何かが手薄になっていたと思います。
AIが浸透することで私が最も危惧することは、人間が思考しなくなることです。人間とは、最終的には最適な“正解”が欲しいかもしれないですが、その過程で「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤を重ね、時に失敗や挫折も経験することで成長できるというものです。個人的には、世の中がいかに効率的に“正解”に辿り着けるかという競争に収束していくことは望みません。その意味では、アルゴリズムという存在はある種罪深い側面もあります。“正解”以外の選択肢にも“寄り道”することで人生が豊かになることはたくさんあります。それは企業や事業にとっても同じこと。コンサルティングファームとしては、「考えること」の価値をクライアント企業に伝えていく使命があると思っています。
藤嶋 なるほど、それこそファームの存在意義ですよね。
あとは、人間が思考しなくなるのではという懸念がある中、部下にどこまでAIを使わせるか、も悩みどころです。我々が新人の時代にはAIが無く、泥臭く試行錯誤してきたわけですが、どちらの世界線が幸せなのか、なども考えたりしています。本日のテーマからは逸れてしまいますので、このあたりもどこかでお話できれば嬉しいです。大変興味深いお話ありがとうございました!
後編はこちら)【スカイライト×WorkX対談】AI時代においてコンサルファームの価値はどこにあるのか
